本のおさかなさん

小説、詩、エッセイなどの本の中からから、魚や水生動物を集めた辞書型水族館です。

さかな

モンゴイカ

山田風太郎「円谷幸吉 」『人間臨終図巻 1』徳間書店

机の上に遺書があった。それには父母や兄姉に、「父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました。干し柿、モチも美味しゅうございました」にはじまり、すし、ブドウ酒、リンゴ、しそめし、南蛮づけ、ブドウ液、養命酒、モンゴいか、等、各人に、妙に食い物の礼ばかり述べてあったが、最後に、
「父上様、母上様、幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません」
という文章があった。


モクギョ

柳田国男「小僧と狐 」『日本の昔話』新潮社

うちの御本尊様はお勤めを上げると、舌をお出しになるから間違いっこはないと言って、ぽんぽんと木魚を敲いてお経を読んでいますと、急いで狐のお釈迦様は長い舌を出しました。


モクギョ

夏目漱石「永日小品 」「昔 」『文鳥・夢十夜』新潮社

主人は毛皮で作った、小さい木魚程の蟇口を前にぶら下げている。夜暖炉の傍へ椅子を寄せて、音のする赤い石炭を眺めながら、この木魚の中から、パイプを出す、煙草を出す。そうしてぷかりぷかりと夜長を吹かす。木魚の名をスポーランと云う。


マス、ミノー

ヘミングウェイ、瀧口直太郎 訳『キリマンジャロの雪』角川書店

マスの背中が水面上に現れると、一群のミノーが狂おしく跳び上がった。その小魚はまるで一握りの散弾が水中に投げ込まれたように、パッと水面に散らばった。


ミナ

吉田修一「破片 」『最後の息子』文藝春秋

岩から足を抜き、二人一緒に海面へ浮き出ると、思い切り胸で息をした。岳志の水中眼鏡には、まだミナがついていた。


メダカ

グリム兄弟、金田鬼一 訳「こわがることをおぼえるために旅にでかけた男の話 」『完訳グリム童話集(一)』岩波書店

おこしもとは、お庭を流れている小川の岸へ出て、雑魚やめだかのうじゃうじゃいる水を、手おけに、なみなみと汲みとらせました。その夜のこと、わかい王さまが、いい気もちに寝ていらっしゃるところへ、おこしもとの入れぢえで、おきさきは王さまのかいまきをはぎとってから、つめたい水のいっぱいはいってる手おけを、雑魚ぐるみに、ざあっと王さまへぶっかけると、小さなおさかなは、王さまのからだのまわりで、ぴちぴちはねまわりました。


メダカ

村上春樹『またたび浴びたタマ』文藝春秋

しかしですね、実際問題として、メダカなんか〆めても、こりこりと硬くて、そんなにおいしいわけないですよ。


マンボウ、アザラシ

吉本ばなな『アムリタ』角川書店

私はよく一人でずっと、マンボウの水槽の前に立った。水族館をざっと見て、あざらしも見て、そしてマンボウのところに最後たどりつくと嬉しくて、自分でも驚くほど長い時間、マンボウをぼんやり見ていた。


マリモ

いとうせいこう、みうらじゅん『見仏記』角川書店

「これ、どうやって入れたのかね?」
言われてみれば、いっぱいいっぱいだ。
「三球・照代が見たら眠れなくなるでしょう」
私は低く笑ったまま、答えずにいた。
「伸びたのかね、背が。あ、育ったわけか?」
まりもを飼ってるみたいなことを言っている。


マリモ

岩井俊二『ラヴレター』角川書店

「樹ちゃん、風邪は馬鹿にできないよ。マリモ電気知ってるでしょ?」
「マルショウの向かいの?」
「そうそう。あそこのご主人ウチのお得意なんだけど、こないだ風邪こじらせちゃってね。普段風邪なんかひいたこともないような人で、こりゃ鬼の霍乱かねなんて言ってたんだけど、案外そういう人が怖いんだよね。なんだか急にひどくなっちゃって……肺炎だって」


マメルク

トーベ・ヤンソン、山室静 訳『たのしいムーミン一家』講談社

「なんの魚だと思う?」
と、スニフがききました。
「すくなくみても、マメルクだね。見たまえ、十本も針がからになってる」
こう、スノークは答えました。


マス

エヴァリン・マクドネル、栩木玲子 訳『ビョークが行く』新潮社

それとも、たとえばお父さんはマス釣りが大好きだから、インターネットであれこれ調べる。お母さんはデス・メタルにハマってるからナップスターからいろいろとダウンロードする。十年前に比べると、そういうことが友だちのあいだでもずっと一般的になってきた。そのほうがてっとり早いし。自分の夢を実現するためにわざわざ地球の裏側までいかなくてもすむ。台所で同じことができるんだもの。アルバムでやろうとしているのもそれね。台所をパラダイスにする。それが究極だし、理想の音楽体験。


マス

ヘミングウェイ、瀧口直太郎 訳『キリマンジャロの雪』角川書店

ニックは澄んだ水を見おろしたが、川底の小石のために水は茶色を帯び、何匹ものマスがひれを動かしながら水流にさからって身の安定を保っているのが見えた。見ている間にも、そいつらはすばやく角度を変えて移動し、ふたたび速い流れの中で身の安定を保った。ニックはそういうマスの動きを長いことながめていた。


マス

ヘルマン・ヘッセ、高橋健二 訳『クヌルプ』新潮社

ラテン語だとかなんだとかくだらんものはいっさい、ぼくには格別たいせつではなくなった。きみも知ってるとおり、ぼくはいつも勘がよかった。何か新しいものを追求しだすと、しばらくのあいだはこの世にそれ以外のものは何もなくなってしまうのだった。体操がそうだったし、マス釣りがそうだったし、植物学がそうだった。あのときは女の子のことでまさしくそのとおりだった。


マス

チャック・パラニューク、池田真紀子 訳『ファイト・クラブ』早川書房

このホテルで、厨房の階と宴会場の階の中間で停止したエレベーターの中で、皮膚科医学会に出された鱒のゼリー寄せにくしゃみをかけたら、三人の客が塩が強すぎたとけなし、一人が美味しかったと褒めたとぼくはタイラーに報告する。


マス

フランツ・カフカ、池内紀 訳「橋 」『カフカ短篇集』岩波書店

下では鱒の棲む渓谷がとどろいていた。こんな山奥に、はたして誰が迷い込んでくるだろう。


マス

村上春樹『1973年のピンボール』講談社

バス・ターミナルをとり囲む街灯が夕暮の中にポツリポツリと灯りはじめ、その間を何台ものバスがまるで渓流を上下する巨大な鱒のように往き来した。


マグロ

イソップ、山本光雄 訳「漁師たちと鮪 」『イソップ寓話集』岩波書店

追っかけられて凄い音をたてながら逃げてきた一尾の鮪が知らずに船の胴の中に踊りこみました。


マグロ、チョウザメ、ピラニア、デンキウナギ

村上春樹『羊をめぐる冒険』講談社

まぐろの群が巨大なプールをぐるぐるとまわり、ちょうざめは狭い水路を遡り、ピラニアは肉塊に鋭い歯を立て、電気うなぎはしみったれた豆電球をぽつぽつとともしていた。


マグロ

川上弘美「七面鳥が 」『溺レる』文藝春秋

「七面鳥は、肢を折って、腹をぺったりと僕の胸の上に置いて、ぐるる、ぐるる、と喉を鳴らしてたんだな。僕の上で、すっかり落ちついちゃって。それが実におっきな七面鳥でねえ」
言いながら、ハシバさんは両手を大きく広げ、七面鳥の大きさを示した。示された幅は鮪ほどのものだった。