本のおさかなさん
小説、詩、エッセイなどの本の中からから、魚や水生動物を集めた辞書型水族館です。
さかな
キンギョ
幸田文「金魚 」『包む』講談社
しかし、猫どもと金魚の交鑵は、なんとなく成立していた。猫は自分たちのコップからは水を飲まず、金魚の大きい器からばかり飲む。猫が水を飲みはじめると、金魚はこぞって浮きあがり、ほとんど背鰭で舌をこするほど近くを通る。
キンギョ
玖保キリコ「金魚殺し 」『ジョーシキ一本釣り』角川書店
朝起きたら、無残に浮かんでいる一匹の金魚。
仕事場に来た石渡Pは怒った。
「ひどい!玖保さん、金魚殺した」
平謝る私。
しかし、その二~三日後に第二の犠牲者が……
金魚鉢の中に残りの金魚も浮かんでいた。
キンギョ
蛭子能収「旅とつきあう 」『くにとのつきあいかた』思想の科学社
着いた所はとても名古屋とは思えないような田舎のアーケード街でした。そこで夏祭りがあったのです。金魚すくいや、飴屋などの出店が賑やかに並んでいます。
旅に出た時、ちょうどそこでお祭りがあった、というのは感動します。特に一人で行った場合、感動は2倍になるでしょう。私は50円の切り売りスイカを食い、そのお祭りの人混みの中を幸せそうに歩いたのでした。
キンギョ
内田百間「東京日記 」『サラサーテの盤』福武書店
道端の水溜りに大きな金魚がいくつも泳いでいたが、金魚の姿から色合い、鱗の筋までもはっきりと見えるのは、水の外からの明かりに照らされているのでなく、金魚が一匹ずつ光っているのであった。
キンギョ
石坂澄児、ASAHIネット 編、筒井康隆・井上ひさし・小林恭二 選「母の秘め事(付常温核融合) 」『パスカルへの道第1回パスカル短篇文学新人賞』中央公論社
「お母さんは手品をするの。」
「どんなてじな?」
「水の中から火が燃え上がって目玉焼きが出来る手品よ。」
「金魚花火みたいなの?」
「一寸違うけど……」
ギゾ
洲之内徹「ゴルキという魚 」『帰りたい風景 気まぐれ美術館』新潮社
余所の家ではどうしたかしらないが、子供のころ、私の家で母が食わせてくれるギゾは、焼いて酢にひたすか、やはり焼いてから葱汁にしてあった。その葱もいわゆる東京葱ではなく、西国の青い葉の葱で、これが食膳に上るのは、たいてい晩春か初夏の頃だったような気がする。だから、いまでもその季節になると、私はふっと、ギゾの葱汁を思い出したりするのである。
キス
ジェイムズ・ジョイス、柳瀬尚紀 訳『フィネガンズ・ウェイク1・2』河出書房新社
大食前の祈り。われらは、極太の才長けたれば、信じやすきなるに。されば願いをご高卵のうえ、胃袋のために鱚をまわしたまえ。苦ーメン。われらを嘆息たまえ。
ケガニ
千石涼太郎『酒飲みのための魚のはなし』朝日ソノラマ
しかし、やはりケガニは北海道で食べてこそ、本物である。できれば札幌や千歳ではなく、漁港のある町で食べてもらいたい。そして身を食べたら、カニミソの中でも、もっとも美味しいケガニのカニミソを食べ、そのあとは甲羅に燗酒を入れる。そして甲羅酒を飲みながら次のカニに手を延ばすのだ。これを極楽といわずに何が極楽といえようか。
カレイ
グリム兄弟、金田鬼一 訳「漁夫とその妻の話 」『完訳グリム童話集(一)』岩波書店
そのうちに、浮子が、ぐいっと沈みました。竿をあげてみましたら、大きな鰈が一ぴき、水のそとへでてきました。そして、そのお魚が、りょうしにはなしかけたものです。
「ま、きいてください、りょうしのおじさん、わたくしはほんとうのかれいではありません、魔法をかけられてる王子です。あなた、わたくしを殺して、なんのやくにたちますか。たべてみたって、おいしくはありませんよ。海へもどして、およがせておいてくださいな」
カレイ、アジ、サザエ
横尾忠則「小布施の北斎曼陀羅 」『導かれて、旅』文藝春秋
おもむろに運ばれてきた包みの中から現われた一枚の油彩画にぼくは集中した。集中したというより集中させられた。
洋風の皿にカレイとアジ、それにサザエが盛られた一見ごく普通の静物画である。現存する北斎の油彩画はたった一点だけだそうだ。そういう意味では貴重な作品である。
カモノハシ
村上春樹「シドニー日誌9月11日 」『Sydney!』文藝春秋
カモノハシは水の中では、目と鼻と口を全部閉じてしまう。するとくちばしが唯一の感覚器官になり、それをたよりに餌を探すのだ。変なやつだ。だいたい卵を生んで孵化させて、それにまた授乳するなんて、どうしてそんな二度手間なことをしなくてはならないのだ?一七九八年に、最初にカモノハシの剥製がイギリスの王立科学院に送られたとき、学者たちは混乱し、「これはきっと悪戯かぺてんに違いない」と思って相手にしなかったということだ。いろんな動物の部分をつなぎ合わせて、適当にでっちあげたものだろうと。気持ちはよくわかる。
カメ
木島俊介『マグリット展カタログ』中日新聞社
<秘密の遊戯者>野球をしているのか、九柱戯の球を打っているのか、いずれにしてもひどく無表情な男たちの上空に浮かんでいるのは、球が変容した亀なのだろうか。
カメ
チャールズ・R・クロス、竹林正子 訳『Heavier Than Heavenabiography of KURTCOBAIN』ロッキング・オン
カートは、メルヴィンズのマット・ルーキンをルームメイトに選んだ。メルヴィンズのメンバーになることがカートの夢だったが、現実にはルーキンの同居人になるのが精一杯だった。カートは亀がたくさん入ったバスタブを居間の真中に置き、亀の排泄物が床下に流れ落ちるよう、床に穴を開けたことが、カートがこの家の修繕にもたらした最大の貢献だった。
カメ
ルイス・キャロル、柳瀬尚紀 訳『もつれっ話』筑摩書房
「兎と亀にたとえたの」クララはいった──おずおずしていたのも、笑われはしまいかと気にしていたのだ。「線路の上に亀と同じ数だけ兎がいるはずはないと思ったわ。それで極端な例をとったの──一羽の兎と無限数の亀」
カメ
江國香織「蕗子さん 」『すいかの匂い』新潮社
蕗子さんはカメを飼っていて、なんとかして裸のカメ、すなわち甲羅からでたときのカメの姿を見てみたいと思っていた。昼も夜も観察したが、カメはいっかな甲羅からでようとしない。蕗子さんは待ちきれなくなって、ちょっとだけのぞいてみることにした。カメをくるっとひっくり返し、お腹側の甲羅に包丁ですーっと切れ目をいれる。もちろん、カメ本体を傷つけないように慎重に──。カメは、あっけなく死んでしまった。