本のおさかなさん

小説、詩、エッセイなどの本の中からから、魚や水生動物を集めた辞書型水族館です。

さかな

カマス

チャールズ・ラム、平田禿木 訳「幻しの幼児──夢物語 」『書物の王国2夢』国書刊行会

──庭園の末端の方にあるお池の中で、はえがすうっすと、あちこち泳ぎ廻ってい、その中を処々に、彼等が不作法に跳び廻るのを嘲笑ってでもいるように、陰気くさい梭魚先生が、澄しこんで水の途中にぶら下っているのを見たり──


カマス

トーベ・ヤンソン、山室静 訳『たのしいムーミン一家』講談社

「つりをしなくちゃならないの?つりをしても、とれたことがないじゃないの。それに、小さいかますなんかが針にかかったら、かわいそうじゃないの」
と、スノークのおじょうさんがいいました。


カマス

内田百間「間抜けの実在に関する文献 」『百鬼園随筆』福武書店

私は梭子魚の干物のように痩せ衰えて、その家を出た。


カニ

ガルシア・マルケス、木村榮一 訳「うしなわれた時の海 」『エレンディラ』筑摩書房

「腹がへって死にそうだ」
「みんなそうですよ」と老人は言った。「浜へ行って蟹を掘ってこられたらいかがです」
ハーバート氏は涎を流さんばかりにして砂を掘りおこしていた。


カニ

E・F・ベンスン、平井呈一 訳「いも虫 」『怪奇小説傑作集1』東京創元社

ふつうのいも虫にある吸盤のついた足のかわりに、そのいも虫どもには、蟹の鋏みたいなものがずらりとならんで生えていて、からだを波打たせてその鋏のような足を動かしながら、前へ進むのである。


カニ

ヘルマン・ヘッセ、高橋健二 訳『クヌルプ』新潮社

「じゃ、あんたはわしを知ってるんだね」と彼は慎重に言った。「わしもどうやらあんたを知ってるようだ。ただ名まえはどうも思い出せない」
「じゃ、カニ屋のじいさんにきいてごらんよ。わしたちが九〇年代にしょっちゅうみこしをすえていたのはどこだったか、とね。もっとも、あのじいさん、とても生きちゃいまいね」
「もうとっくに死んだよ。だが、やっとわかったよ、なあ、昔なじみ。おまえはクヌルプだ。まあちょっとこちらにすわれよ。まったくようこそだ」


カニ

トマス・ハリス、菊池光 訳『羊たちの沈黙』新潮社

彼は明かりを持ち、足音を忍ばせて土牢の部屋に入って行った。息遣いを鎮めるために口を開いた。穴の中で騒がれて今のムードを壊されたくなかった。ゴグルの突出している小さな樽の先端のレンズが肉柄の先についているカニの目のようだ。ゴグルが見た目に不快なものであるのをミスタ・ガムは知っていたが、それで地下室のゲームをして暗闇の中で大いに楽しい思いをしている。


カニ

ルイス・キャロル、柳瀬尚紀 訳『シルヴィーとブルーノ』筑摩書房

水たまりの端から端へ目まぐるしく動きまわっていた六匹の老いた蟹に、ぼくはとりわけ惹きつけられた。その目つきはうつろで、動きはむやみと乱暴で、それがいやおうなしに、シルヴィーとブルーノの味方をしたあの庭師のことを思い出させた。さらに、じっと見つめていると、彼の気違いじみたあの歌の結びの文句が聞こえてきた。


カニ

四谷シモン『人形作家』講談社

もちろん高田腎三さんのアパートにも行きました。腎三さんはごはんが食べたいだろうからとみずから蟹チャーハンを作ってもてなしてくれました。腎三さんはすてきなアパートに住んでいて、部屋には自らデザインした白い木綿のドレスがかかっていました。


カエル、カニ

吉本ばなな『TUGUMI』中央公論社

いつだかは本当に黒魔術にこってしまい「使い魔」だとか言って部屋に大量のナメクジとかカエルとかカニ(これは土地柄でしょう)を飼い、客室に忍ばせたりしたので苦情が出て、おばさんも陽子ちゃんも、おじさんさえも涙を流してつぐみの行状を悲しんだ。


カニ

新美南吉「屁 」『新美南吉童話集』岩波書店

しかし石太郎は、そんな時でも屁を喰ったような顔をしている。その他、豆腐屋、熊ん蜂、蟹の泡、叱言、汽車など、石太郎の屁にみんなが附けた名前は、十の指に余るくらいだ。


カニ

高橋克彦『ドールズ』角川書店

「そうそう。蟹でしたね。前にはもう少し人形も残っておりましたが、現在はこれだけで……」
無造作に紐をほどく。
現われたのは本物の蟹、のように見えた。


カニ

瀬名秀明『パラサイトイヴ』角川書店

パーツが少ないこともあってか、さほど時間もかからずにカニは完成した。大きなハサミと足がついている。リモコンのスイッチを入れると中心部でモーターが回転し、カニはボルトで繋がれた関節をゆっくりと動かしてハサミを振った。本当に潮を招くようだった。利明はうれしくなって別のボタンを押した。足がかしゃかしゃと交互に動き、横に歩いてゆく。水族館の水槽にいる本物と、それは全く同じ動きだった。利明は夢中でカニを家中に散歩させた。


カニ

倉橋由美子「猿蟹戦争 」『大人のための残酷童話』新潮社

そのカニのところへ見舞いに行って、サルが小川に小便をしていたと告げ口をしたものがありました。きっと、以前サルに小便をひっかけられたことのあるナメクジだったのでしょう。


カニ

北原白秋、高野公彦 編「雀の卵 」「別離鈔 」『北原白秋歌集』岩波書店

蟹を搗き蕃椒擂り筑紫びと酒のさかなに噛む夏は来ぬ

蟹の味噌強く噛みしめはしけやし夏は葦辺の香に咽せてけり


カニ

河合隼雄・大牟田雄三「ウソツキクラブ短信18 国際クラブ準備会 」『ウソツキクラブ短信』講談社

わが国に日本ウソツキクラブが設立されて以来、その評判は全世界に広がり、特にアメリカのカニハンバーク女史などはアメリカ中にウソツキクラブ設立を訴えるための行脚をし、その体験を基に『ウソ800の旅』という本を刊行して有名になったとか。


カニ

芥川龍之介「猿蟹合戦 」『蜘蛛の糸・杜子春』新潮社

かつ又蟹の仇打ちは所謂識者の間にも、一向好評を博さなかった。大学教授某博士は倫理学上の見地から、蟹の猿を殺したのは復讐の意志に出たものである、復讐は善と称し難いと云った。


カッパ

川上弘美「春が来る 」『なんとなくな日々』岩波書店

「河童とね、目が合っちゃった」
涼しい顔をして、彼女は小さな猪口を傾けた。葬式帰りの畦道で、十五センチほどの者とすれ違った。驚いて振り返ると同時に向こうも振り向き、目が合った。たしかに河童だった。頭には皿もあった。次の瞬間河童は駆けだし、用水路にぼちゃんと飛び込んだ。


カツオ

吉田兼好、西尾実・安良岡康作 校注「徒然草第百十九段 」『新訂 徒然草』岩波書店

鎌倉の海に、鰹と言ふ魚は、かの境には、さうなきものにて、この此もてなすものなり。それも、鎌倉の年寄りの申し侍りしは、
「この魚、己れら若かりし世までは、はかばかしき人の前に出づること侍らざりき。頭は、下部も食はず、切り捨て侍りしものなり」と申しき。