本のおさかなさん
小説、詩、エッセイなどの本の中からから、魚や水生動物を集めた辞書型水族館です。
さかな
カキ
アンブローズ・ビアス、奥田俊介・倉本護・猪狩博 訳『悪魔の辞典』角川書店
[牡蠣]文明の進歩のおかげで、人間があつかましくも、はらわたを取らずに食べられるようになった、ぬるぬるして、ずるずるした貝!殻のほうは時に貧乏人に与えられることがある。
カキ
トマス・ハリス、高見浩 訳『ハンニバル 下』新潮社
レクター博士はワインをついだ。まず皮切りとして、ほんのわずかなアミューズ―─ブロン産の牡蠣一個とソーセージ少々―─しか出さなかったのは、博士自身、グラスに半ばついだワインをすすりつつ、晩餐の席についたクラリスの艶姿をじっくり鑑賞する時間が欲しかったせいである。
カキ
トマス・ハリス、菊池光 訳『羊たちの沈黙』新潮社
ボルティモアの銹色の夜明けのはるか下方、最厳重警戒棟で人の動きが始まりかけている。暗くなることのないその棟では、海水を奪われた樽の中のカキが殻を開くように、苦悩に満ちた精神の一日が始まる。泣き疲れて眠りに落ちた神の子がまた泣き始めるべく目を覚まし、怒号する者たちは咳払いをしている。
カキ
ゴールズワージー、渡辺万里 訳『林檎の樹』新潮社
「なあ君」とガートンが言った。「同情なんてものは単なる自己意識の結果にしか過ぎないと思うな。五千年このかた何の進歩もない一つの病さ。あの病さえなきゃあ世の中はもっと楽しいんだが……」
アシャーストは流れ行く雲を眼で追いながら答えた。
「そりゃあ牡蠣の中の真珠みたいなものだよ、どっちみち」
カキ
アガサ・クリスティー、橋本福夫 訳「クリスマス・プディングの冒険 」『クリスマス・プディングの冒険』早川書房
クリスマスの正餐は二時に始まったが、これはまったくの饗宴といってよかった。広い壁炉の中では、大きな丸太がパチパチと陽気な音をたてて燃えており、何人もの人間の同時にガヤガヤと喋る雑然とした声も、薪のはぜる音を圧倒するほどだった。カキのスープがおなかにおさまり、大きな二羽の七面鳥がはこびこまれたと思うと、骸骨だけの姿になって出ていった。
カキ
ラーメンズ『微妙ハンター』ぴあ
「あとがき」とは本当は「backoyster」と書く。これはアラスカの猟師に古くから伝わっている。牡蠣を採りに行く時は一度沖まで出て、それから後ろに戻りながら採るとよく採れるという口承である。
カキ
村上春樹「アイラ島。シングル・モルトの聖地巡礼 」『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』平凡社
島に行く人は、機会があったらぜひ生牡蠣を食べてみるといい。六月は牡蠣には向かない季節だが、それでもここの牡蠣は大変に美味であった。ほかの土地で食べる牡蠣とは、ずいぶん味わいが違う。生臭さがなく、こぶりで、潮っぽいのだ。つるりとしているが、ふやけたところはない。
「そこにシングル・モルトをかけて食べるとうまいんだ」とジムが教えてくれた。「それがこの島独特の食べ方なんだ。一回やると、忘れられない」
カエル
ルイス・キャロル、柳瀬尚紀 訳『シルヴィーとブルーノ』筑摩書房
「もう遊ばせられないの」ブルーノはとても悲しそうに答えた。「だってつぎに何をしたいかいってくれないんだもん。ぼく、この子にアオウキグサや──生きているトビケラの子やなんかを教えてやったのに──なんにもいってくれないんだ。何が──したい──の」彼は蛙の耳もとで声をはりあげた。だがその小さな生き物はじっとしゃがみこんだまま、知らん顔をしていた。
カエル
筒井康隆「バブリング創世記 」『バブリング創世記』徳間書店
ケロケロはテロテロの子なり。ケロケロ、ケロンパとケロヨンを生み、ケロンパ、クビチョンパを生み、ケロヨン、カエルを生めり。カエルの子はカエルなり。カエル、カエルを生み、カエル、カエルを生む。そのカエル、カエルを生み、カエル、カエルを生み……。
カエル
岩井俊二『スワロウテイル』角川書店
「なんだい?カエルでもつかまえたのかい?」
グリコはぬかるみの中に手を突っ込んで、カエルをつかまえたふりをしてヒョウの方に走って来た。ヒョウはあわてて逃げたが、自らぬかるみに足を取られて泥まみれになってしまった。
カエル
秋山裕美『図説拷問全書』筑摩書房
そもそも「魔女の印」とはどんなものだったのか。
これは、一定の形をもっているわけではなかった。外見的にはシミやイボ、ホクロ、瘤などの形状をしており、ウサギ、カエルの足、クモ、イヌ、ネズミなどを表しているとされた。
カイメン
パスカル、前田陽一・由木康 訳『パンセ』中央公論社
<太陽の海綿>
われわれは、ある現象が常に同じように起こるのを見ると、そこから自然的必然性を結論する。たとえば、明日も日があるなどというごときである。しかし、自然はしばしばわれわれの予想を裏切り、自分自身の規則に従わない。
イワナ
糸井重里 監修、ほぼ日刊イトイ新聞 編『オトナ語の謎。』新潮社
[動きが鈍い]
春先のイワナは動きが鈍い。否、そういう動きではない。言葉の指す先がなんであるかというと、これがなんと数字である。新商品の売れ行きや、為替の動向などを見て発する言葉である。