本のおさかなさん

小説、詩、エッセイなどの本の中からから、魚や水生動物を集めた辞書型水族館です。

さかな

タラ

川上弘美『センセイの鞄』平凡社

「ツキコさん、ワタクシは、ちょっと不安なのです」と、いつかセンセイが言った。
センセイの家で、湯豆腐を食べていたときのことである。昼間っから、アルマイトの鍋でセンセイがつくってくれた湯豆腐をさかなに、ビールを飲んでいた。鱈も春菊も入っている湯豆腐だった。わたしのつくる湯豆腐は、豆腐だけである。こうやって知らない人間どうしが馴染んでゆくのだな、などと昼酒でぼんやりした頭で思っていた。


タニシ

柳田国男「米嚢粟嚢 」『日本の昔話』新潮社

母親は仕方がないので荷車に妹を載せて嫁はいらぬか嫁はいらぬかと、大声に触れてあるくうちに、その車が転げて、妹は田に落ちて田螺になり、悪い継母は堰に落ちて、堰貝になってしまったそうであります。


タニシ

町田康「くっすん大黒 」『くっすん大黒』文芸春秋

こいつぁ名案、って、自分は、大黒をプランターに置き、はは、あばよ、厄介払いができてさっぱりしたぜ、一生そこでへらへらしてろ、タニシ野郎が、と行きかけたのであるが、二、三歩行って、すぐに引き返した。


タニシ

北原白秋、高野公彦 編「海阪 」「七久里の蕗 」『北原白秋歌集』岩波書店

観音の甍ながめて買える頃早や夕明る田螺がころころ


タニシ

麻生久美子『いろいろないろ』幻冬舎

田舎には、都会よりも遊ぶものがたくさんある気がします。そしてそれは既製のおもちゃなんかじゃなくて、自分で見つけたり作ったりするもの。
私がよくやっていたのは、崖をのぼったり降りたり、川でタニシを採ったり、基地を作ったり、etc.……。とにかく男の子顔負けの元気な子でした。


タツノオトシゴ

ピカソ、松田健児 訳『ピカソ展躰とエロスカタログ』産経新聞社

<1936年5月8日>
ブロンズの衣装を身にまとった体は火泡の笑い声とともに闘牛場の真ん中に現れ精液に汚されたバラ色と白い衣装を着て牡牛の頭をした若い女性の花冠を授けられ大理石でできた船にかけられた足の羽根は血まみれの鏡のマーガリン添えのタリエリーニでできたベールの帆で採光窓の液体の空を航海しその手をますます糞に押し付けタツノオトシゴの巣で不可能な色彩の絆を刈り取り


タコ

宮沢賢治、天沢退二郞 編「心象スケッチ春と修羅 」「冬と銀河ステーション 」『新編宮沢賢治詩集』新潮社

川はどんどん氷を流してゐるのに
みんなは生ゴムの長靴をはき
狐や犬の毛皮を着て
陶器の露店をひやかしたり
ぶらさがつた章魚を品さだめしたりする
あのにぎやかな土沢の冬の市日です


タコ

町田康「くっすん大黒 」『くっすん大黒』文芸春秋

「ベッドに女がひとり仰臥している。ふと、呼び鈴がなる。ドアを開けると巨大な蛸が、きゃあ。恐い恐い恐い。女は急いでドアを閉めてベットに戻る。するとベットには金色の蛸。吸盤がぬるぬる。なんて恐い蛸だろう。なんて凄い蛸だろう。急いで窓に駆け寄る。するとそこにも蛸がびっしりと。気がつくと部屋は蛸で埋まっている。ぎっしりと・・・・・・。真っ赤な茹で蛸が。ああ、あたしは恐い。あたしは恐いのよ。ぎゃぁあああああ。ぎゃぁあああああ。どいて、どいて、ああ、また蛸だわ。きゃあ、きゃあ、蛸がいっぱいなのよ。世界中蛸だらけだわ。おほほほほほほほほ」


タコ

星新一「ささやかれた物語 」「海 」『つねならぬ話』新潮社

ためしにと、麦飯や豆の煮たのを与えてみた。タコは喜んで食べた。こまかな揺れが、喜んでいるような印象を感じさせる。


タコ

萩原朔太郎「宿命 」「死なない蛸 」『ちくま日本文学全集 萩原朔太郎』筑摩書房

かくして蛸は、彼の身体全体を食ひ尽くしてしまつた。外皮から、脳髄から、胃袋から。どこもかしこも、すべて残る隈なく。完全に。


タコ、カニ

中島らも『牢屋でやせるダイエット』青春出版社

「まったく、タコにからまれたカニだな、おれは」
「ほう、そうか」
「だがな、カニだって甲羅は硬いぜ」


タコ

洲之内徹「西田正秋先生 」『絵のなかの散歩』新潮社

グラビヤには、私の郷里の松山の、東雲神社の宝物の能面を使った。能面とはいっても、そこの神社には、普通の面の他に、馬だとか、鵜だの鳶だの蛸だのとかいった、今日ではどういう狂言に使ったのかわからない動物の面があり、そういうものを選んで、写真は松山に住んでいる友人の写真家に写してもらい、その解説を、私は西田正秋先生に書いてもらおうと思った。


タコ

川上弘美「椰子・椰子 冬 」『椰子・椰子』小学館

途中少しの間気を失い、それからいくらか元気が出たので、夕飯には蛸を煮た。


タコ

川上弘美「可哀相 」『溺レる』文藝春秋

「これ」と、ナカザワさんに一本渡された。一本、蛸の足を渡された。


タコ

いとうせいこう、みうらじゅん『見仏記2』角川書店

テープが終わると、みうらさんが言った。
「こういう解説テープってさ、結婚式のスピーチだよね。なんか変わったとこあっても、うまく言いくるめるもん」
黙って笑いながら、私はまた千手を見た。先のない腕を数本突き出している姿が、調理途中のタコにも似ていた。そのせいか、この千手には怪物的なイメージがある、と思った。


タコ

泉鏡花「伊勢之巻 」『泉鏡花集成4』筑摩書房

まあ、ソレ御覧じまし、それだのに、いかなこっても、酢蛸を食りたいなぞとおっしゃって、夜遊びをなすって、とんだ若様でござります。


タイワンドジョウ

町田康「河原のアパラ 」『くっすん大黒』文芸春秋

「うるさいわねぇ、台湾泥鰌みたいな顔をしているくせに」


タイ

山田風太郎「幸徳秋水 」『人間臨終図鑑 1』徳間書店

刑の宣告から六日後の一月二十四日、独房に置かれた朝食に、特別に塩焼きの小鯛が膳にのっていたので、彼はその日が来たことをたちまち悟った。
幸徳は、鯛の匂いをかいだだけで残し、白湯をすすって、前から書きかけていた感想文をつづけ出した。
「今の私一個としては、その存廃を論ずるほどに死刑を重大視していない。……病死と横死と刑死とを問わず、死すべきときのひとたび来らば、充分の安心と満足とをもってこれに就きたいと思う。今やすなわちその時である。これ私の運命である」


タイ

村上龍「完全なる敗北ワールドカップ’98フランス大会 」『寂しい国から遥かなるワールドサッカーへ』ビクターブックス

昼食はFRANCOTTEというレストランでフレンチシーフード。魚介類のスープと鯛のポワレ、店のオリジナルの発泡性の白ワイン。テレビでA組の予選を2試合見る。ブラジルがモロッコを3-0で破る。


タイ、アンコウ、ウミガメ、シタビラメ、ウニ

村上春樹『羊をめぐる冒険』講談社

僕はワイン・リストを見てなるべくさっぱりした白ワインをを選び、オードブルに鴨のパテと鯛のテリーヌとあんこうの肝のサワー・クリームをとった。彼女はメニューを念入りに研究してから海亀のスープとグリーン・サラダと舌平目のムースを注文し、僕はうにのスープと仔牛のパセリ風味ローストとトマト・サラダを注文した。