本のおさかなさん

小説、詩、エッセイなどの本の中からから、魚や水生動物を集めた辞書型水族館です。

さかな

シャコ

アンドレ・ブルトン、巌谷國士 訳「溶ける魚 」『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』岩波書店

この蝦蛄すなわち海のバッタは、空中を旅するのとまったくおなじ軌跡をえがいて水中をとび、手のなかにとらえれば羽根がぱちぱちとはねるものである。


シャコ

川上弘美「さやさや 」『溺レる』文藝春秋

なまたまごはね、割ったら白身だけまず掻くんですよ。こまかな泡いっぱいになるまで、白身を、こうね。右手で箸を素早く廻す手振りをしてみせてから、メザキさんは蝦蛄を口にほうりこんだ。


シミ

泉麻人『電脳広辞園』アスキー

『本のおさかなさん』は、文学作品のなかに描かれたさまざまな魚が解説されたサイトだが、ここに澁澤龍彦『文字食う虫について』の一節がある。
「李時珍の『本草鋼目』のなかに、次のようなことが書かれている。すなわち俗間の伝説に、衣魚が道教の怪巻のなかに入って、神仙と書いてある文字を食うと、身の色が五色になる」


シミ

澁澤龍彦「文字食う虫について 」『ドラコニア綺譚集』河出書房新社

李時珍の『本草鋼目』のなかに、次のようなことが書かれている。すなわち俗間の伝説に、衣魚が道教の経巻のなかに入って、神仙と書いてある文字を食うと、身の色が五色になる。


セイゴ

洲之内徹「ゴルキという魚 」『帰りたい風景 気まぐれ美術館』新潮社

セイゴの寄るのは秋の終りで、冬になって水が冷たくなると、この魚は沖の深みへ去ってしまう。だから、私がセイゴ釣りに熱中していたのはせいぜい一ヶ月くらいだったろうか。その年の暮には、私は松山を離れて東京へ移った。二、三年後に山内さんが亡くなった。


セイウチ

星野道雄「ベーリング海の風 」『イニュニック アラスカの原野を旅する』新潮社

セントローレンス島に春がやって来た。この島のエスキモーにとって、春のセイウチ猟は、一年の暮らしの中心である。ベーリング海をおおっていた氷がゆるみ始め、そこにリードと呼ばれる小さな海が現れる。人々はパズルのように入りくんだリードをたどりながら、氷海へセイウチ猟に出かけてゆく。


サンマ

三木聡、岩松了、園子温、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、塚本連平『時効警察』角川書店

「『太郎くんは果物屋さんへ行き、一本十五円のバナナを二本と、一個二十五円のリンゴを三個買い、次に魚屋さんへ行って一匹七十円のサンマを二匹買おうと思ったら、三十円足りませんでした。さて、太郎くんはいくら持って家を出たでしょう』……はい、最初に正解した人には、いいものをあげます」
一生懸命、問題をメモしていたサネイエがふと、顔を上げる。
「一本十五円のバナナって、それいつの話ですか?」
「っつーか、哀れになるね。サンマ買おうとしたら三十円足りないって……」


サンマ

「小林賢太郎×ケンタロウ 」『ラーメンズつくるひとデコ』太田出版

小林■■なるほどね。プライベートでも料理はつくるんですか?
ケンタロウ■■つくりますよ。仕事で散々料理つくって帰ってきて、今度は何の制約もない料理というのが楽しかったりしますね。あと雑誌ベースで仕事していると、旬の食材が使えないんですよ。三ヶ月先撮りとかなので、例えば秋刀魚なんか初物の全然脂がのってないものを使って「秋刀魚が美味しくなってきました」という頁をつくったりするわけです。だから本当に旬のものが使えるのが家でだったりする。


サンマ

さくらももこ「サンマ 」『ももこのいきもの図鑑』集英社

店のおやじは驚き、「えっ、サンマ、もう二匹、オーケー?」と、実にたどたどしくインド人に確認を求めた。おやじが驚くのも無理はない。私達も内心は"何かの間違いではないか、インド人よ"と、おやじ同様に思った。
インド人は「サンマサンマ」と言いながらうなずいていた。やはりサンマで間違いなかったのだ。


サンショウウオ

北原白秋、高野公彦 編「海阪 」「氷沢行 」『北原白秋歌集』岩波書店

苔水に山椒の魚はうまれゐてまだこまごまし日光いとへり


サンゴ

アンドレ・ブルトン、巌谷國士 訳「溶ける魚 」『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』岩波書店

彼女にむかって、「この遮光ガラスになった僕の手を、両手でつかんでごらん、ほら、日食だろ」といったとき、彼女はにっこり笑い、血の珊瑚の枝をとってくるために海にもぐる。


サンゴ

アンデルセン、大畑末吉 訳「人魚姫 」『アンデルセン童話集1』岩波書店

お城の壁はさんごで築いてあり、上のとがった高い窓は、このうえもなくすきとおったこはくでできています。屋根は、貝殻でふいてありましたが、それが水の動くにつれて、開いたり閉じたりする様子は、まったくみごとなものでした。


サワラ

村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第3部鳥刺し男編』講談社

僕は魚を載せた皿を下げた。皿はまるで綺麗に洗って拭いたあとみたいにぴかぴかだった。よほどおいしかったのだろう。僕は猫が戻ってきたちょうどそのときに、自分がたまたま鰆を買って来たことが嬉しかった。それは猫にとっても僕にとっても、祝福すべき善き前兆であるように思えた。この猫にサワラという名前をつけようと僕は思った。僕は猫の耳のうしろを撫でながら、いいか、お前もうワタヤ・ノボルなんかじゃなくてサワはラんだ、と教えた。僕はできることならそのなことを世界中に大きな声で告げてまわりたかった。


サワラ

川上弘美「なんとなくな日々21 」『なんとなくな日々』岩波書店

もう一軒は魚屋さん。市場の中の、頑固な魚屋さんである。こちらは喫茶店よりももっとかんたんに「行きつけ」になった。なにしろ話しかける隙がない。さわら、四切れ。中落ち、一皿。そのくらいしか喋らなくてすむ。でも向こうはこちらの顔を覚えている。小さな店の前に立つと「ああ」という表情を、一瞬してくれるのだ。その表情を見ると、嬉しくなる。それで、ますますその店で買うようになる。


ザリガニ、アマエビ

麻生久美子『いろいろないろ』幻冬舎

私の家はその頃とにかく貧乏だったから、ザリガニを釣るためだけにいいものを持ってこられなかった。「パンの耳でも釣れるからいいもん!」と開き直って釣っていましたが、パンだからだんだんと水に溶けてしまって……。でも、コツがあるんですよ。溶ける前に釣る!この技においては結構プロでしたね。
そして家に帰るとザリガニがご馳走に早変わり。友達にはよく驚かれたけど、うちではちょっとしたおやつになっていたのでした。味は甘エビです。


サヨリ、アサリ

川上弘美「中くらいの災難 」『椰子・椰子』小学館

二本重なった親指に、草履のゴムは少しきつかったが、いい具合だった。そのまま商店街に行き、魚屋でさよりと浅蜊、八百屋で葱と茄子と胡瓜を買った。


サメ

トーベ・ヤンソン、下村隆一 訳『ムーミン谷の彗星』講談社

「ぼく、きみがおぼれてしまったか、さめに食べられちまったんかと思ったよ。きみがいなくなったら、ぼく、どうなるんだい」
スニフは、そうさけびました。


サメ

チャールズ・ブコウスキー、青野聰 訳「人魚との交尾 」『町で一番の美女』新潮社

「とうとう行っちゃたな」とビルはいった。
「鮫のえじきだな」
「おれたち、捕まるとおもうか」
「大丈夫だよ、1杯くれ」
「気楽にいこうな。どうせ深みにはまったんだもんよ」


サメ

マーカス・フィスター、谷川俊太郎 訳『にじいろのさかなしましまをたすける!』講談社

さんごしょうのせまいわれめ。そこならさめも
はいってこられない。なかまはあんぜんだった。
でもしましまは?にじうおはじっとして
いられなかった。しんぱいでしんぱいで。


サメ、ウツボ、ウミヘビ

吉田知子『極楽船の人びと』中央公論社

海は荒々しく、危険に満ちている。波は一打ちで人間を蟻のように潰してしまうだろう。鮫もいます。ウツボも海蛇もいるし、猛毒の深海魚もいる。しかし、海がおそろしいのは生者だけだ。いったん、死者として海中へ入ればこんなに賑やかで楽しいところはまたとないのである。