本のおさかなさん
小説、詩、エッセイなどの本の中からから、魚や水生動物を集めた辞書型水族館です。
さかな
アワビ、エビ
洲之内徹「竜胆の花は冷たき 」『絵のなかの散歩』新潮社
話の途中で、私は亭主に、その絵はどういう絵なのかと訊いてみた。すると亭主は、以前ここに数日滞在して、このあたりを写生して歩いていた爺さんの絵かきが、うまい海老や鮑を食わせてもらったお礼だと言って、発ち際にそれを呉れて行ったのだと言った。
エビ
車谷長吉「なんまんだあ絵 」『鹽壺の匙』新潮社
哲男は厭だなと思って目を逸らした。すると素麺の出汁が小蝦で作ってあるのが分った。小蝦は目玉が飛び出るほど高いので、平生は花鰹で出汁を作ってすましていた。
エビ
玖保キリコ「巻く女 」『ジョーシキ一本釣り』角川書店
レストランで出される生春巻は、見てくれの良さも考えられているので、最初にライスペーパーの上にえびを乗せ、その上に表面を下にして大葉が置かれ、その他の材料がそれらの上に置かれる。
そうするとライスペーパーが透けてえびが見えるので、美しい。
しかし、客に出すわけではない、私による私のための春巻きは巻き安さ優先で葉っぱは外、えびは中である。
エビ
秋山裕美『図説拷問全書』筑摩書房
『江戸の司法警察事典』(笹間良彦著)によると、江戸時代の正式な拷問は「笞打ち」、「石抱き」、「海老責め」、「釣り責め」の四つに限られていた。これらは、中世ヨーロッパで行われた拷問と同じように、役人の立会いのもとで、一定の順序を踏んで行われた。
エイ
ガルシア・マルケス、鼓直 訳「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語 」『エレンディラ』筑摩書房
お前の死んだお祖父さんのアマディスは、キラキラ光るエイが空を飛んでいくのを見たって言ってたよ
アンコウ、イワシ
山下清「蛍いか 」『にほんぶらりぶらり』筑摩書房
朝めしのときに、あのアミのなかで、むやみにイワシをたべていたアンコウが味そ汁ににられて来てたべたのは、おかしくてなりません。ぼくはその味そわんをもって、「あのバカ・アンコウめ、ざまみろ」といってやろうと思ったが、何だかかわいそうにもなったのでやめてしまいました。しかし味そしるはうまいので、おかわりをしました。
アワビ
澁澤龍彦「三つの髑髏 」『唐草物語』河出書房新社
九穴の鮑貝とはなにか。文字通り、穴が九つある鮑貝のことで、わが国にはきわめてめずらしく、一名千里光といい、これを食えば長生不死の徳を授かるという。
アユ
村上春樹『1973年のピンボール』講談社
彼らは駅に近い便利な平地を避け、わざわざ山の中腹を選んではそこに思い思いの家を建てた。そのひとつひとつはとてつもなく広い庭を持ち、庭の中には雑木林や池や丘をそのままに残した。ある池の庭には本物の鮎が泳ぐきれいな小川さえ流れていた。
アユ、コイ
嶽本野ばら『下妻物語ヤンキーちゃんとロリータちゃん』小学館
「茨城って土地は変でな、お祭りが大好きみたいなんや。普通はお祭りっちゅうたら、何処かの神社の行事があって、それのオマケっていうか、それを盛り上げるために開かれるやろ。そやけど茨城のお祭りは違うねん。茨城の人は意味なくお祭りをやりよるねん。水仙の花が咲く頃やからスイセンファンタジーというお祭りをやるとかな、五月になったし鯉のぼりまつりを開くとかな、鮎の季節がきたしあゆの里まつりを開催してみるとかな、何かにつけて、お祭りにしてしまうねん。茨城の人間は、祭るものもあらへんのに平気でお祭りをするんや。祭りになると、茨城中のヤンキーが集まってきて、大はしゃぎするらしーわ」
アユ
さくらももこ「アユ 」『ももこのいきもの図鑑』小学館
川から釣ってきたばかりのアユは、涼し気なスイカの匂いがする。なぜ私がアユの体臭の事まで詳しく知っているのかというと、父ヒロシの趣味がアユ釣りだったからである。
アユ
川上弘美「春の山本 」『椰子・椰子』小学館
それであたしは旅に出ることにしましたどうぞ探さないでください西の方へ行くような予感がしてます西の湖のほとりに行くような予感がしてますだからといってどうぞ探さないでください探す場合は鮎政宗かトモエヤのからすみ持ってきてくれるとなおいいですそれでは山本アユミミ
アメリカザリガニ
さくらももこ「アメリカザリガニ 」『ももこのいきもの図鑑』集英社
家に帰って親に早速「アメリカに行きたい」と申し出た。アメリカザリガニというからには、アメリカに行かなくては手に入らないと思ったからである。アメリカザリガニのためなら、アメリカまで行く勇気も情熱もある。無いのは交通費だけだ。親が交通費さえ出してくれれば実現可能だ。
アメーバ
大高保二郎 監修「さまざまな水浴者たち 」『ピカソ展躰とエロスカタログ』産経新聞社
水浴の人々はアメーバのように、また骨の組み合わせのように、さらには石や木、金属でできた彫刻そのもののようになる。海辺は、人体を解剖して自在に再構成する、「変容(メタモルフォーズ)」の実験現場と化した。
アマゾンモーリー、フナ
柳澤桂子『われわれはなぜ死ぬのか』草思社
高等生物の生殖細胞について考えると、雌雄の合体、すなわち有性生殖が遺伝物質の若返りと不死化に必要なのではないかと考えてみたくなる。しかし、ある系統のフナやアマゾンモーリーという熱帯魚では、集団のなかに雄がいない。雌の産んだ卵が近縁の他種の精子によって活性化されて発生し、雌になる。
アナゴ
三木聡、岩松了、園子温、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、塚本連平『時効警察』角川書店
「それより、今日こそあなご寿司~!」
ところが、スキップしながら角を曲がったしずかが、やにわに絶叫した。
「あぁ~!」
「どうしたの?」
追いついた霧山が見ると、店の前は明かりが真っ暗で、貼り紙がしてあった。
「誠に勝手ながら、本日、良いあなごが捕れなかった為、臨時休業致します。
あなご寿司あなごん」
しずかの悲鳴は闇に吸い込まれていった。