本のおさかなさん

小説、詩、エッセイなどの本の中からから、魚や水生動物を集めた辞書型水族館です。

さかな

タイ

松尾スズキ『大人失格』光文社

ラクガンの菓子としての最大の弱点は、キンツバや大福のように、それ独自のデザインを持たない点につきる。ある時は蓮の花に、時には鯛にまで。姿形を変え、何かを表現せずにはいられない自立度の弱さ。あの貧乏臭さはどうしたものか。


タイ、エビ

中島らも『牢屋でやせるダイエット』青春出版社

おかずがこれまた豪華なのである。
朝はふりかけやら、鯛味噌やら、ちょこっとしたおかずに汁が付く。
昼は少しボリュームがあって、ハムステーキなんぞが出てくる。このハムステーキは厚さが一センチほどもあってあなどれないのだ。カレーが出される日もあった。
夜は、これはもう贅沢だとそしられるくらいの献立になる。エビフライなんか三匹も出てくる。品数も多い。街の洋食屋で食べれば結構な金額になるメニューだと思った。
ただ、惜しむらくは、どれもこれも心を込めて冷やしてあるのだ。


タイ、サザエ、ハマグリ

武田百合子「雛祭りの頃 」『ことばの食卓』筑摩書房

坂下の消防署の隣りの菓子屋で、二十八日頃、鯛やさざえや蛤、松茸やにんじんやわらびなど、竹籠に入った金花糖の雛菓子を買ってもらった。


タイ、ヒラメ

車谷長吉「漂流物 」『漂流物』新潮社

あんた柿山で毎日毎日、鍋や天麩羅作っとって、これみないずれ人の口に入って、いずれみな糞や小便になって行くんや、思うやろ。思う。思わへん。水槽の中に泳いどう鯛や平目、あれみないずれ人の尻の穴から、糞と小便になって、水洗便所へ流されて、海へ流れて行くが。わしら毎日、柿山の調理場へ糞と小便作りに行きよんのやがえ。きれいな皿に糞と小便、うまそうに盛り付けしての。それで銭もらう。料理人ちゅうのは、悲しいの。粋やの。


タイ

川上弘美「トカゲ 」『物語が、始まる』中央公論社

牛肉じゃなくても、そうよ、たとえば鯛のあらを煮てミキサーにかけたものなんか、いいんじゃないの?


タイ

泉麻人『電脳広辞園』アスキー

ちなみに『わかば』のたいやきは、木村荘八が色紙に描いた絵がベースになっていて、昭和28年の創業時、安藤鶴夫が寄せた「たいやきのしっぽにはいつもあんこがありますやうに」という”お言葉”が社訓とされているらしい。


タイ

石川淳「海幸山幸 」『新釈古事記』筑摩書房

「かの鉤をとった魚があるか。」
もろもろの魚どもいう。
「このごろ鯛はのどに刺さったとげあって、ものが食えぬとなげいておりますれば、必定こやつが取ったのでございましょう。」
そこで、鯛ののどを探ってみると、鉤があった。


スッポン

町田康「くっすん大黒 」『くっすん大黒』文芸春秋

「いや、金はないんだけどな、夏子は食い物を貯めておく癖があるんだよ。冷凍庫に干物やらなんやら、米もあるし。あと、そこの棚にも缶詰やらひじきやら、すっぽんのだしの瓶詰めもいっぱいあるしよぉ」


スッポン、サメ、タコ

岩井俊二『スワロウテイル』角川書店

亀和田は金城逮捕に異様な執念を燃やしていた。スッポン、マムシ、イタチにサメにタコ坊主。どれもが刑事亀和田につけられたニックネームである。


スズキ

村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』講談社

「私にはよくわからないわ」と彼女はフィッシュ・ナイフですずきの身を切りながら言った。


スズキ

松尾スズキ『大人失格』光文社

よくインタビューとかで、その変な名前は本名ですかとか、由来はとか聞かれることが本当に多く、もういちいち答えるのが面倒くさいので、あとがきの場所でなんだが、書いておく。
1 スズキは本名ではありません。
2 魚の「スズキ」が、人の名前みたいで面白いなーと思っていたので、なんとなく。


スズキ

幸田文「鱸 」『包む』講談社

それほど鱸が釣りたいなら海へ出かけて釣ればいいじゃないかということになるが、海釣りと河釣りではしかけも違うしおもしろさも違うそうなのである。


スコティッシュサーモン、サーモン

土屋守『スコッチ三昧』新潮社

Q.スコッチに合うつまみにはどんなものがありますか。

やはりスコットランドのサーモンでしょうね。スコットランドにはたくさんの川がありますが、ほとんどの川には天然のサーモンが遡上してきます。スコティッシュサーモンといわれているのは、アトランティックサーモン(大西洋サケ)の一種で、遠くグリーンランド沖まで回遊して、産卵のために故郷の川に戻ってきたものです。アトランティックサーモンの中で、スコティッシュサーモンは一番おいしいといわれています。本当は刺身で食べるのが一番うまいんだけれど、スコットランドの人は生では食べないので、一番ポピュラーなのがスモークドサーモンです。


スケソウ、タラ、ニシン

有島武郎「生れ出づる悩み 」『小さき者へ・生れ出づる悩み』新潮社

明鯛から鱈、鱈から鰊、鰊から烏賊というように、四季絶える事のない忙しい漁撈の仕事にたずさわりながら、君は一年中かの北海の荒浪や激しい気候と戦って、淋しい漁夫の生活に没頭しなければならなかった。


スイミー

レオ=レオニ、谷川俊太郎 訳『スイミー』好学社

みんなあかいのに、一ぴきだけはからすがいよりもまっくろ、
でもおよぐのはだれよりもはやかった。
なまえはスイミー。



ゾウリムシ

柳澤桂子『われわれはなぜ死ぬのか』草思社

現在では、次のようなゾウリムシの一生が解明されている。ゾウリムシの一生は、有性生殖(接合、オートガミー)にはじまる。有性生殖を終えたゾウリムシは二分裂を数百回くりかえして死ぬ。これがゾウリムシの一生であるが、その間に未熟期、成熟期、老衰期が区別される。成熟期に有性生殖がおこると、そこから次の世代の一生がスタートする。


ジュゴン

澁澤龍彦『高丘親王航海記』文藝春秋

退屈まぎれに船子たちの手で甲板に引きあげられた全身うす桃色の儒艮は、船長のさし出す肉桂入りの餅菓子を食い、酒をのませてもらうと、満足そうにうつらうつらしはじめた。


キンギョ、ランチュウ、リュウキン、シュウキン

岡本かの子「金魚撩乱 」『きんぎょ』ピエ・ブックス

明治二十七八年の日清戦役後の前後から日本の金魚の観賞熱はとみに旺盛となった。専門家の側では、この機に乗じて金魚商の組合を設けたり、アメリカへ輸出を試みたりした。進歩的の金魚商は特に異種の交媒による珍奇な新魚を得て観賞需要の拡張を図ろうとした。都下砂村の有名な金魚飼育商の秋山が蘭鋳からその雄々しい頭の肉瘤を採り、琉金のような体容の円美と房々とした尾を採って、頭尾二つとも完美な新種を得ようとする、ほとんど奇蹟にも等しい努力を始めて陶冶に陶冶を重ね、八ケ年の努力の後、ようやく目的のものを得られたという。あの名魚「秋錦」の誕生は着手の渾沌とした初期の時代に属していた。


シャチ

イアン・ギティンズ、中山啓子 訳『ビョークの世界』河出書房新社

《バチェラレット》は、鮮烈なイメージを横溢させる。たとえばイゾベルを”娘の姿を借りた血の泉”と、あるいはひとりあてもなくさまようかつての恋人を”入り江に捕らえられたシャチのように迷う”と表現するように、その創造性は傑出している。